とうとう幼稚園へはあれっきり行かずに、それから約一年後、私はすぐ小学校へはいった。
その小学校は、私の家からはかなり遠かった。それにまだ、その町へ引越してから一年も立つか立たないうちだったので、同じ年頃の子とはあまり知合のなかった私は、その町内から五六人ずつ連れ立っていく男の子や女の子たちとは別に、いつまでも母に伴われて登校していた。そうして学校へ着いてからも、他の見知らぬ生徒たちの間に一人ぼっちに取残されることを怖(おそ)れ、授業の終るまで、母に教室のそとで待っていて貰(もら)った。最初のうちは、そういう生徒に附き添って来ていた母や姉たちが他にもあったけれど、だんだんその数が減り、しまいには私の母一人だけになった。
まだ授業のはじまらない前の、何んとなくざわめき立った教室の中で、私は隣りの意地悪い生徒にわざとしかめ面(つら)なぞをされながら、半ば開いた硝子窓(ガラスまど)ごしに、廊下に立ったままでいる私の母の方へ、ときどき救いを求めるような目で見た。やっと頭の禿(は)げた、ちょぼ髭(ひげ)の、人の好さそうな受持の先生が来て、こんどは出欠を調べるために、生徒の名を順々に読み上げてゆく。
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