恰(あたか)も友呼ぶ千鳥の如く、お庭へ、ぱら/?と人影が黒く散つた。
其時(そのとき)、お局(つぼね)が、階下へ導いて下(お)り状(ざま)に、両手で緊(しっか)と、曲(くせ)ものの刀(かたな)持つ方の手を圧(おさ)へたのである。
「うゝ、うゝむ。」
「あゝ、御番(ごばん)の衆、見苦しい、お目触(めざわ)りに、成ります。......括(くく)るなら、其の刀を。――何事も情(なさけ)が卿様(だんなさま)の思召(おぼしめし)。......乱心ものゆゑ穏便(おんびん)に、許して、見免(みのが)して遣(や)つてたも。」
牛蒡(ごぼう)たばねに、引括(ひきくく)つた両刀を背中に背負(しょ)はせた、御番の衆は立ちかゝつて、左右から、曲者(くせもの)の手を引張つて遠ざかつた。
吻(ほっ)と呼吸(いき)して、面(おもて)の美しさも凄(すご)いまで蒼白(あおじろ)く成りつつ、階(きざはし)に、紅(くれない)の袴(はかま)をついた、お局(つぼね)の手を、振袖(ふりそで)で抱いて、お腰元の千鳥は、震へながら泣いて居る。いまの危(あやう)さを思ふにつけ、安心の涙である。
下々(しもじも)の口から漏(も)れて、忽(たちま)ち京中(きょうちゅう)洛中(らくちゅう)は是沙汰(これさた)だが――乱心ものは行方が知れない。
